「産後、なんだか疲れが取れない」「気分が晴れない日が続く」――それは、育児の大変さだけが原因ではないかもしれません。産後の女性は、構造的に貧血になりやすい状態にあります。今回は、産後の貧血がなぜ起こりやすいのか、そしてどう向き合えばいいのかを整理します。
産後に貧血が起こりやすい、2つの理由
産後の貧血には、主に2つの要因が重なります。1つは出産時の出血です。特に出血量が多かった場合、体内の鉄の蓄え(貯蔵鉄)が一時的に大きく失われます。もう1つは授乳です。ただし、2025年に改定された「日本人の食事摂取基準」では、授乳中だからといって鉄分の推奨量が一律に上乗せされる設計にはなっていません。授乳中は月経が停止している方が多く、月経による鉄の損失がなくなる分、授乳による鉄の需要増加分を相殺できると考えられているためです。目安としては、月経がない場合で1日6.5mg程度、月経が再開している場合で10.5mg程度です。つまり、産後の貧血の主な原因は「授乳で鉄が余分に必要になるから」ではなく、「出産時に失われた鉄の蓄えが、回復するまでに時間がかかるから」と理解するのが、最新の基準に即した正確な説明です。
産後の貧血は、気分にも影響する
ここで、正直に伝えておきたい研究データがあります。国立成育医療研究センターの研究では、産後に貧血だった女性は、貧血でなかった女性と比べて産後うつを発症するリスクが1.63倍高いという結果が報告されています。また、産後の鉄欠乏に対して鉄剤による治療介入を行ったランダム化比較試験では、うつ症状の軽減、疲労の減少、育児への意欲向上が確認されたとする報告もあります。
「産後は誰でも大変だから」で片付けられがちな不調の中に、貧血が関係しているケースは少なくないようです。もちろん、産後うつの原因は貧血だけではなく、ホルモンバランスの変化、環境の変化、睡眠不足など、複数の要因が重なって起こります。貧血の改善が、その一因を減らす助けになる可能性がある、という理解が正確だと思います。
産後の貧血は、いつまで続くのか
月経が再開すると、鉄の喪失スピードが再び上がり、貧血症状が強く出る方もいます。月経再開の時期は個人差が大きく、授乳をしていない場合は産後2〜4か月、授乳をしている場合は産後8か月〜1年程度、あるいは卒乳の時期まで再開しないこともあります。立ちくらみなど貧血症状が強い場合や、月経量が非常に多い場合は、早めに婦人科に相談することが勧められています。
できることから、少しずつ
基本は、食事からヘム鉄を意識的に摂ることです。ヘム鉄は肉や魚に含まれ、吸収率が10〜20%と、植物性の非ヘム鉄(4〜6%)より効率的に体に取り込まれます。エゾシカ肉は100gあたり3.4mgの鉄分を含み、牛肉(2.7mg)より多く、低脂質です。育児で忙しい中でも、無理なく取り入れられる選択肢の一つとして知っていただけたらと思います。
大切なお願い
この記事は一般的な栄養情報の紹介を目的としており、診断や治療を目的としたものではありません。気分の不調が続く場合や、貧血症状が強い場合は、一人で抱え込まず、かかりつけの産婦人科医や自治体の相談窓口に相談してください。
サプリメントという選択肢
食事に加えて、サプリメントで補うのも一つの方法です。
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出典:日本産科婦人科学会「妊産婦の鉄欠乏性貧血」、国立成育医療研究センター研究データ、厚生労働省「日本人の食事摂取基準(2025年版)」

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